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Home 特集 コラム 赤井 誠の「Linuxビジネスの作り方」 「Linuxビジネスの作り方」VOL.4

赤井誠の「Linuxビジネスの作り方」

「Linuxビジネスの作り方」VOL.4

 

前回までの内容を簡単にまとめると、次のようになります。

 1. Linux ビジネスの最大の課題は、どういう基準で評価するかが不透明であった
 2. Red Hat Enterprise Linux (RHEL) のリリースにより、状況が変化した
 3. 多くのサーバーベンダーは、RHELを動作保証することになった

では、これらにより、何が大きく変わったのでしょうか?
それは、「ビジネスの可視化」ができたということにつきます。つまり、それまで、販売されたサーバーが、どのOSを使っているかがわからなかったものが、わかるようになったということです。

多くの顧客は、商用UNIXの代替ソフトウェアとして、RHELを採用しました。商用UNIXは、通常サーバーベンダーがハードウェアと一緒に提供、販売、サポートします (例. HPにおけるHP Integrity サーバーとHP-UXの関係)。そして、顧客は、サーバーとOSを同じ代理店やシステムインテグレーターなどを経由して一括して購入することが一般的でした。この傾向はLinuxサーバになっても同じでした。顧客は、Linuxサーバーを導入する場合、商用UNIXと同様にサーバーベンダーから、サーバーとOSを同時に購入する傾向にあります。

このため、RHEL の販売情報を確認することで、業種、顧客、Linuxサーバー数および売上げ金額がわかるようになったと言えるようになりました。(もちろん、RHELをレッドハット社や流通代理店から購入する方法もあります。 今回の話は、サーバーベンダーがLinuxビジネスを立ち上げという観点から記述されています。)
これにより、Linuxビジネスの作り方の最初の一歩である「ビジネスの可視化」の方法が見えてきました。

次は、RHELを中核にし、可視化すべき構成要素をさらに具体的に、明確にしていけばいいということになります。
では、その構成要素を、どのように定義したらいいのでしょうか?
 


■キャズムとホールプロダクト

まず、ここで、ビジネスを立ち上げていくときに、役に立つ書籍を紹介します。

1991年発行以来、まさにIT業界のマーケティング戦略のバイブルとして、ベストセラーとなっている『キャズム(Crossing the Chasm)』(ジェフリー・ムーア) です。

アメリカのビジネススクールでは、この本やその他のムーアの書籍を教科書として使用しているところが多いと聞きます (実際、私が交換留学していたテキサス大学ビジネススクールでのハイテクマーケティングの授業でも使用されていました)。

『キャズム』は1991年発行のために、事例は古いものです。しかし、今でも参考になる考えがたくさん含まれています。特に、IT業界でビジネスを企画、推進するときには、基礎知識といってもよい考えや用語がたくさん登場します。

ところで、このようなビジネス書で紹介される理論は、物理法則のように、のちに第三者により検証されることにより理論として確立するというようなことは、実は多くありません(ある経営学の教授曰く、「ほとんど証明されていない」)。そのため、技術者にとっては、証明されていないのに『理論』であるということに、非常に違和感を持つことも少なくありません。

しかし、企業でビジネスを推進する場合、協力する方々や交渉する相手が、それらの理論で使われている用語を知っているという前提で話を進めることもよくあります。そのため、多くのビジネス書で紹介される理論を、知識として知っておくということは、ビジネスを立ち上げていく上で、大きな助けとなります。例えば、基礎的な事柄をひとつひとつ説明する必要がなくなったり、あるいは、その方々が気に入っている考え方(理論)に沿って、説得できることになるからです。
(身もふたもない言い方になりますが、証明されていることは多くないので、ケースバイケースで、適当な、あるいは適切な理論を使って、交渉する方法を採用することができます。その理論を信奉していなくても、していなくてもかまいません。)

では、『キャズム(Crossing the Chasm)』の重要な用語はどういうものでしょうか? アマゾンのサイトにある書籍紹介を引用してみましょう。

   ムーアは、テクノロジーのライフサイクルとその各段階でターゲットとすべき顧客を、標準偏差を用いて明確に定義している。新たなテクノロジーが最初「イノベーター」(テクノロジーオタク)に受け入れられ、やがて他者に先んじて投資しようとする「アーリー・アドプター」(別名ビジョナリー)によって支持され、そして実利主義者であり、成功の鍵を握る「アーリーマジョリティー」や保守的な「レイト・マジョリティー」に採用されていくという過程は、きわめてわかりやすい。

   本書が問題とするのは、このライフサイクルの図において、各層の間に存在する溝(キャズム)である。つまり、ハイテク製品のマーケティングでは、自分たちがライフサイクルのどこに位置するのかを正確に認識し、首尾よく溝を越えていくことが成否を分けるというのだ。アップルやパーム・パイロット、シリコングラフィックスなどの事例を適宜紹介し、ユニークな比喩を用いるのでわかった気にさせられるが、マーケターは「信頼できる情報がほとんどない状況下」で自社製品がどこに位置するのかを認識し、「これまででもっとも難しい決断を下さなければならない」。

この中では、「アーリー・アドプター」「アーリーマジョリティー」「キャズム」という用語が大切になります。

IT業界では、新しい製品が話題を集めることがよくあります。それらの製品は、アーリー・アドプターが採用し始めた段階では、大きな注目を集め期待も高まります。しかし、それらの多くは、うまく採用が進まずに、消えていきます。

どうしてでしょうか?

この本では、アーリー・アドプターとアーリーマジョリティーの間に、大きな溝「キャズム」が広がっていると指摘し、多くの新製品が一般市場に浸透しなかったのは、このキャズムを越えられなかった(大きく市場に受け入れられなかった) からだと主張します。もちろん本当に、大きな溝(キャズム)が物理的に存在するというわけではありません。このキャズムを越えるのは、普通の装備だけでは失敗する。そして、成功するには、いろいろな準備や装備が必要だということを比喩として、使用しているのです。

では、その準備や装備とは何でしょうか? 見ていきましょう。

アーリー・アドプターが関心を持ちがちなのは、スペックやアーキテクチャ、機能といったものです。しかし、アーリーマジョリティーが考えるのは、例えば、導入しやすさ、サポートの容易性や事例というように気なる点が変わります。このようなアーリーマジョリティーに購入してもらうには、彼らが「買いたいと思わずにはいられない」と考える、必要な製品およびサービスを提供することだとします。それら製品とサービスをまとめて「ホールプロダクト」といいます。
つまり、新製品を成功に導くには(つまり、キャズムを越えるには)、この必要となる「ホールプロダクト」を提供する必要があります。

ここで、また大切な用語「ホールプロダクト」がでてきました。

実務的には、「ホールプロダクト」とは、

「ある製品(コアプロダクト)を販売するときに、存在しないと困る製品やサービス(自社製品、他社製品を含む) の集合体」

と考えることができるかもしれません。例を使って説明すると、今流行の仮想化ハイパーバイザーをコアプロダクトとする場合、少なくとも、インストールサービスや教育サービスなどを同時に提供する必要があるということなります。

この考え方に従うならば、企業向けのLinuxサーバーは、1990年代後半に「イノベーター」により受け入れられ、「アーリー・アドプター」によって支持されたと考えられます。そして、2002-2003年にかけて、「アーリーマジョリティー」に採用されはじめる時期、つまり、キャズムを超えるか、超えないかという位置にきていたと考えられます。

このような状況から、Linuxビジネスを立ち上げるには、Red Hat Enterprise Linuxをコアプロダクトとして、そのホールプロダクトを考える必要性が出てきたということになりました。

では、RHELをコアプロダクトとして考えるとき、どういうものがホールプロダクトを構成する要素である製品やサービスでしょうか?  
いくつか、リストします。

   □コアプロダクト
      Red Hat Enterprise Linux

   □周辺製品・サービス
      サーバー
      構成支援
      インストール
      設置
      電話保守サービス
      教育

つまり、RHELの販売を伸ばすためには、少なくとも上記のような製品やサービスが必要になります。言い換えれば、これらがあるとRHELの販売が伸びる可能性があるということです。
今、みなさんが関係する製品やサービスのビジネスを伸ばしたいと考えているのであれば、第一歩として、このホールプロダクトを調べてみるといいと思います。

次回は、ホールプロダクトを構成する要素をもう少し掘り下げて考えていくことにします。お楽しみに。
 

著者プロフィール

赤井 誠(あかい まこと)
赤井 誠(あかい まこと)

MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長。
日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社後、HP-UXやHPソフトウェアの開発に従事。その後、マーケティングに移動し、HP製品だけでなく、各種ISV製品販売推進を担当。サービス事業戦略部門を経て、2003年からLinuxビジネス立ち上げのリーダーとなり、日本HPをLinux No.1ベンダーに導く。ハイパフォーマンス・コンピューティング、VMWare、Microsoft Windows、HP製クラウド管理ソフトウェアのビジネス開発担当を歴任。2010年より、株式会社サイバーリンクスにて新規事業開発に従事。2011年4月 MKTインターナショナル株式会社を起業し、現職。
『マックで飛び込むインターネット』(翔泳社) の執筆以降、ライター活動も実施中。『MySQLクックブック』『JBoss (開発者ノートシリーズ) 』(オライリージャパン) など多数。
ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の所属する組織とは何ら関係はありません。

Twitter id:  mktredwell

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