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Home 特集 コラム 赤井 誠の「Linuxビジネスの作り方」 「Linuxビジネスの作り方」VOL.6

赤井誠の「Linuxビジネスの作り方」

「Linuxビジネスの作り方」VOL.6

 

前回から少し間が空きましたので、今回は趣向を変え、番外編として、11月に話題になりましたAppleTV ではなく、、、スパコンの話を書きたいと思います。

スパコンとは、昨年の事業仕分け以来、一般の人に、実はIT関係者にとっても久々に話題になったスーパーコンピューター(Supercomputer、スパコン) のことです。

スパコンの定義を、Wikipedia から引用します。

膨大な計算処理が目的であり、それを実現するための大規模なハードウェアやソフトウェアを備える。有限要素法や境界要素法などに基づく構造解析、気象予測、分子動力学、シミュレーション天文学、最適化問題、金融工学のような大規模数値解析に基づくシミュレーションに利用される。計算機による大規模シミュレーションを前提とした科学は特に計算科学と呼ばれ、スーパーコンピュータの設計に大きい影響を与えている。 そのような計算科学の成果を元に、工業製品の設計や評価を行うCAEの分野でも広く利用されている。」

つまり、スパコンとは、計算処理、シミュレーションを実施するコンピューターとなります。スパコンとほとんど同義に用いられる用語に、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング) があります。スパコンを提供しているハードウェアベンダーでは、ビジネスをさす場合はHPCを、実際のコンピューターをスパコンということが多いかもしれません。
そのため、今回は、ビジネスをさす場合は、HPCビジネスとし、コンピューターを指す場合はスパコンと呼ぶことにします。

事業仕分けをめぐる議論のとき、HPCビジネスがいかにもIT産業の基幹をなしているかのような意見が散見されました。しかし、調査会社 IDC Japan株式会社によれば、国内IT市場規模(2009)は、約11兆7,389億円であり(http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20100208Apr.html )、HPC市場は、成長したとはいえ411億円(2009年)です(http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20100615Apr.html)。
つまり、IT市場全体の中で1%の規模も占めてはいません。そのため、IT業界に従事するほとんどの人々にとっても、HPCビジネスに関与することは多くなく、知識が共有されているわけではありません。そして、そのHPCビジネスで話題になるトピックは、そのソリューションの性質からテクノロジーにフォーカスされる傾向にあり、ビジネスの現状について解説されることはほとんどありません。

したがって、今回は、あまり一般には知られていないHPCビジネスの現状について、紹介したいと思います。

 

■ 「2位じゃだめなんですか?」 の2位ってどういう意味?

事業仕分けで話題になった「1位、2位」というのは、TOP500 という、世界で最も高速なコンピューターシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクトでの順位のことです。TOP500は、1993年から年2回、LINPACK というベンチマークツールを利用して計測された結果をリストにしています。そのリストは、http://www.top500.org/に公開されており、誰でも自由にアクセスできます。

TOP500の定義をみてもわかるように、TOP500 = 「科学技術計算用のコンピューター」というわけではありません。「ベンチマーク結果が速い」ということが基準です。科学技術用のスパコンではなくても、例えば、現在話題のクラウドサービスプロバイダーが提供しているウェブサービスのコンピュータ群でも、LINPACKによる計測結果を実施すれば、TOP500にエントリーできます。実際に、TOP500の下位に入っているコンピューターには、IT Service Provider と表記されているユーザーが入っています。しかし、通常HPCビジネスには、それらのIT Service Providerに対するビジネスは含まれていません。つまり、TOP500は、100% HPCビジネス/スパコンイコールではないということです。

国別でTOP500にランクインしたコンピューター数を見て、「国力が落ちた、伸びた」という議論もよくされています。現在、日本でTOP500にランクインしている数は、26台であり、アメリカ合衆国の274台、中国の41台についで、3位です。

しかし、日本国内では、TOP500に入る規模を持つスパコンが、このTOP500にはエントリーされていないという現実があります。実は、多くの製造業や金融機関が、自社で稼動しているスパコンをTOP500に登録してないのです。なぜなら、このリストに登録することで、どれくらいのサーバー数を持っているかということが明確になり、どれくらいのIT投資を実施しているかがわかるため、どれくらいのスピードで製品開発ができるかといったことが競合他社にわかってしまうというリスクを感じているからです。

また、日本のクラウドサービスプロバイダーも、1000台単位でのシステム導入が増えてきています。それらのシステムもTOP500への登録は可能ですが、今のところ、そ登録されてはいないようです(システムが、LINPACK用に最適化されているわけではないので、登録しても上位に位置することは困難という判断もあるのかもしれません)。

そのため、TOP500に登録されるコンピューターは、大学・研究所のスパコンに偏る傾向になります。日本でTOP500にランクインさせるコンピュータの数を増やすには、国や自治体が科学技術に対してどれくらいの投資をするかということに依存することになります。


■ HPCビジネスの現状

前述のように、HPCビジネスの市場規模が411億円ですから、事業仕分けで話題になったスパコン投資総額が1000億円を超えるということは、いかに大きな投資であったかがわかります。また、当然その投資金額には、不動産投資に含まれるデータセンターの建築も含まれています。いずれにしても、日本のHPCビジネス市場の2倍以上にあたる規模の投資を実施するわけですから、慎重な判断が、あらゆる視点からなされることは必要でしょう。

スパコンを導入する業界としては、大学・研究所などの公共機関、製造業、金融機関やアニメーション業界などがあります。その中でも、真っ先に新しい取り組みを実施するのが、大学・研究所です。

彼らは、Vol4(http://jp.linux.com/whats-new/column/akai/334769-akai101027)で紹介した、「まだキャズムを超えていない」新しいテクノロジーを導入するイノベーターです。彼らが積極的に導入することにより、製品が鍛えられ、その後企業向けの市場で一般的に使用さることになります。そのため、現在市場規模が小さいからといって、全体のIT市場に影響がないというわけでは決してありません。

例えば、Linuxビジネスの観点で見て、初期のLinux導入の大規模事例がほとんどHPC市場であったのは、彼らがイノベーターとして積極的に導入したしたからに他なりません。また、彼らが非常に大きな負荷を必要とするシステム用のOSにLinuxを採用したことは、LinuxのOSとしての信頼性を向上させた大きな要因の1つであることに間違いありません。

そのようなイノベーターである彼らがもたらしたことの1つに、できる限り汎用的な部品を活用して、価格対性能比でも優れたスパコンを開発したことがあります。現在、スパコンで使用される部品はどこでも手に入るような一般的なものであり、多くが価格対性能比の優れたx86サーバーを用いたシステムとなっています。

スパコン案件に限らず、省庁、大学や研究所などの大型の公共案件は、非常にコストが厳しく、大きな利益を確保するには困難が伴います。そのため、コスト競争力のある企業でないと対応が困難です。
また、現在x86サーバーを中心にしたビジネスでは、大量購入、大量販売による規模のメリットによる低コストが主流となっており、価格競争力の少ない製品提供ができないと、市場で勝っていくことができません。

これらの状況から、10年以上前は世界中にたくさん存在したスパコン専業ベンダーは、ほとんど市場から撤退してしまいました。そして、残っているスパコン専業ベンダーのほとんどが、創業以来黒字化していない状況であったり、社名は残っていても他社に買収されてしまっている場合があります。

結果として、TOP500をリードしているハードウェアベンダーシェアは、IBM 、HP の2社が3位以下を大きく引き離して、圧倒していている状況です。HPCビジネス全体を見ても、この2社が市場をリードしています。また、小規模なスパコンシステムではDELLの活躍も見逃せません。日本では、NECや富士通のx86サーバーの活躍を目にすることも多くなりました。つまり、特殊な事例を除き、以前のようにスパコン専業ベンダーが市場をリードする時代ではなくなり、業務向けサーバーを提供する企業がHPCビジネスもリードするようになったといえます。

最後に、HPのHPCビジネスへの取り組みを、公開できる範囲で紹介します。

一部のメディアのコラムに、HPがスパコン市場での地位が下がってきているという記事が掲載されました。しかし、TOP500リストのベンダーシェアでは、HPが40%程度のシェアを持ち、IBMとシェア1位を争っています。

HPによるシェア獲得の大きな要因は、スパコンのテクノロジーの主流が、x86サーバーとLinux をベースとした汎用的なシステムになると見越して、いち早く投資を実施し、ビジネス展開を図ってきたことです。この動きは、現在でも変わりがありません。例えば、今回のTOP500で4位にランクインした東京工業大学のTSUBAME2.0も、GPU(Graphics Processing Unit) を活用したコンピューティングが普及すると予想し、サーバーそのものをこのシステム向けに共同開発しているのです。

日本のHPC市場でみても、ある調査会社のレポートによれば、HPはx86サーバーを使った市場シェアで1位を長く保持してきました。ただ、顧客の主流は企業向けのスパコンであり、公開できるものは少ないため、「スパコン」ベンダーというとすぐにHPの名前が浮かばないかもしれません。

HPの実際の日本での取り組みは、株式会社東芝 セミコンダクター社の導入の公開事例が参考になると思われます。

 ■ 株式会社東芝 セミコンダクター社
    HP BladeSystemを中核とした
    HP ProLiantを大規模採用し、DFMシステムを構築
     http://h50146.www5.hp.com/enterprise/casestudy/toshiba2/

この事例では、スパコンという用語がでているわけではなく、お客様にとってのソリューションや価値を中心にして記述されています。しかし、NAND型フラッシュメモリの開発用システムで採用されたものであり、規模としてはスパコンにあたります。NAND型フラッシュメモリは、携帯音楽プレイヤーやスマートフォンのストレージデバイスに用いられることが多い部品です。スパコンがもたらした新しい技術のイノベーションは、実際の私たちの身の回りにも新たな価値をもたらしていることも、この事例からお分かりいただけると思います。

スパコンに採用される新しいテクノロジーを追いかけることで、数年後の企業向けシステムの動向を推測することも可能です。調査してみてはいかがでしょうか?

では、次回をお楽しみに。

著者プロフィール

赤井 誠(あかい まこと)
赤井 誠(あかい まこと)

MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長。
日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社後、HP-UXやHPソフトウェアの開発に従事。その後、マーケティングに移動し、HP製品だけでなく、各種ISV製品販売推進を担当。サービス事業戦略部門を経て、2003年からLinuxビジネス立ち上げのリーダーとなり、日本HPをLinux No.1ベンダーに導く。ハイパフォーマンス・コンピューティング、VMWare、Microsoft Windows、HP製クラウド管理ソフトウェアのビジネス開発担当を歴任。2010年より、株式会社サイバーリンクスにて新規事業開発に従事。2011年4月 MKTインターナショナル株式会社を起業し、現職。
『マックで飛び込むインターネット』(翔泳社) の執筆以降、ライター活動も実施中。『MySQLクックブック』『JBoss (開発者ノートシリーズ) 』(オライリージャパン) など多数。
ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の所属する組織とは何ら関係はありません。

Twitter id:  mktredwell

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