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工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」

「よしっ、Linuxで行こう!」VOL2 Linux3段活用説

 

Linuxの普及というと、Linuxを搭載したサーバやPC、あるいは、最近活発な携帯端末や情報家電への組み込みが増えれば好しとするのが通例でしょう。実際、筆者も2001年以来、サーバの何%にLinuxが適用されているかという調査会社のレポートを見て、一喜一憂していたものです。

しかし、Linux(あるいは、オープンソースソフト:OSS)の普及を市場シェアだけで論ずると見落とすものが多すぎるようです。市場シェアの大きさはLinux普及の指標として必要条件ではありますが、十分条件ではありません。

筆者の考えですが、Linuxの特徴を十分に捕らえるためには、組織、あるいは、社会におけるLinux普及を次の3つの側面からバランスよく見る必要があるのではないでしょうか;

  1. エンドユーザとして使用(1段活用):メールサーバ、Webサーバ、Webサービス等、企業内(あるいは個人)での使用。
  2. ビジネスで活用(2段活用):Linux上のアプリケーションソフトの販売、LinuxをプレインストールしたサーバやPC、Linuxサポートビジネス、Linuxシステム構築サービス、組み込みシステム等。Linuxは、商用ソフトに比べ、再配布、修正・改変などビジネス遂行に対する『しばり』が少ないという特徴を生かしたもの。
  3. 開発貢献(3段活用):ビジネス活用する上で必要なLinuxのバグ修正や機能拡張をアップストリーム(Linux本流のソースコードツリー)にパッチとして投稿する、あるいは、開発コミュニティへの参加など。

端的に言うと、LinuxはWindowsやUNIXと違って、「使って終わり(1段活用)」という代物ではありません。この点こそが一社が専有する商用ソフトとの大きな違いなのです。大企業であろうと、スタートアップ企業であろうと、ビジネスへの適用方法を工夫すればWindowsなどの商用ソフトに比べてはるかに少ない制約で、しかも、長期間の交渉を要することもなくいつでも使用を開始できるし、公開されたソースコードを活用すれば当該ビジネスに必要な機能拡張を加えることさえもできます(2段活用)。また、Linuxに加えた拡張を開発コミュニティと共有することによって、さらなる拡張に繋げ、『world's best and brightest』の知恵を結集することも、あるいはまた、当該企業のハード仕様をLinuxにサポートさせることもできます(3段活用)。そして、それらの全てがユーザのメリットとして還元されるのです。

3段活用の観点でいくつかLinux活用の実例を見てみましょう。

(1) Linux搭載サーバのビジネス
1990年代にLinuxディストリビューションが登場すると、日本のサーバベンダも早々にメールサーバやWebサーバに適用し、評価しました(1段活用)。2000年代初頭からはサーバへのプレインストールサービスやソースコードを活用した企業基幹システム向けサポートビジネスが展開され(2段活用)、2005年位からは顧客へ提供したバグ修正や機能拡張をLinuxアップストリームへパッチ投稿する活動が本格化し、企業基幹システムにLinuxを採用する動きを裏から支えています(3段活用)。


(2) Webサービス
今日ではクラウドコンピューティングという呼び方が定着したようですが、Google社の数千台~数万台に及ぶ検索サーバや各種Webサービスを提供するサーバは自社内コピーに制約がなく、また、ソースコードに改変を加えて独自の仮想化機能などを実装できるLinuxだからこそ可能だったものでしょう(2段活用)。Google社はまたAndrew Morton氏をはじめ優秀なLinux開発者を社員に迎え、自社が開発した機能拡張をLinux開発コミュニティに貢献すること(3段活用)においても大きな存在感をもっていますが、それらは、クラウドコンピューティングにおけるLinuxの機能の拡張にも繋がっています。

(3) 情報家電等の組み込みLinuxシステム
最近では電気製品や精密機械などほとんど全ての『機械』に電子制御が組み込まれ、それら製品の使い勝手を競っていますが、従来はそれぞれに独自のリアルタイムOSを組み込んでいました。2003年に日本の情報家電業界の積極的関与のもとにCE Linux Forumが設立されましたが、その背景には、大量の製品に組み込んでも制約が少なく、かつ、家電の立ち上げ時間短縮など必要なカストマイズを自由に実装できるLinuxの特質があるでしょう(2段活用)。2000年代後半からは、それらの機能をより一般化し、アップストリームへの貢献として公開するようになり、LinuxがリアルタイムOSとしてさらに多くの場面で使われるようになりました(3段活用)。

(4) 車載情報システム
最近の乗用車は既に数10個のCPUチップを搭載していると言われていますが、その中でもナビゲーションシステムなど、Infortaiment (InformationとEntertainmentの合成語)とよばれるシステムにLinuxを採用する動きが広がっています。今年7月に発表されたように、GENIVIアライアンスはThe Linux Foundation が運営管理するLinuxシステムMeegoを採用しました。 これも世界の自動車産業が特定企業の制約を受けることなく協業できる環境を確立しようとする動きとみなすことができます(2段活用)し、また、車載情報システムのプラットフォームが標準化されればユーザのメリットも大きくなるものと期待されます。本アライアンス活動とは別にVolkswagen社が車載ネットワークに関するパッチをLinuxアップストリームに投稿する動きもありましたが、このような自動車産業の要件がLinuxをどのように成長させるかは今後の楽しみの一つです(3段活用)。

(5) 基幹システムのLinuxユーザ
日本の基幹システムユーザでは、Linux採用はシステム構築ベンダからの提案を受け入れたというケースも多いようです(一段活用)。米国のヘビーユーザ(Bank of America、およびChicago Mercantile Exchangeのプレゼンスライドが参考になります)では、組織内にLinux技術者を育成し、Linux開発コミュニティに自社の技術要件を説明したり、さらには、問題点を指摘することで(3段活用)、システム構築ベンダやLinuxディストリビュータとイーブンな関係を築いています。また、社内のアプリケーションソフトを積極的に外販するユーザの例もあれば、さらに、このようなシステムを構築した経験に基づき新たなビジネス開発を編み出す例も増えてきた(2段活用)とForesterレポートにも紹介されています。

(6) アジア地域でのOSS普及推進

日本とアジア地域の国々が協力してLinux/OSSの普及を図るプロジェクトがいくつかありますが、単に普及というとWindowsやOfficeに代わる無償ソフトとしてLinuxやOpen Officeの利用を推進することに終わり(1段活用)、オープンソースの特徴を十分に生かしきったとはいえません。LinuxやOSSを活用し、それぞれの国の状況に合致したビジネスの芽を育て(2段活用)、そのビジネスに必要な開発要件を開発コミュニティに投げかけていけば(3段活用)、それらの国々の技術者もオープンソースのイノベーションに参加することができます。

このような3段活用に基づく見方は、Linux/OSSの社内コンプライアンス活動にも役立ちますので、「気持ち良く制約と付き合う」でも使います。

もっとも、この3段活用説、当然ながら、全てのLinuxユーザが3段活用すべきであると主張しているわけではありません。Linuxに内在するオープンイノベーションの価値は、先ずは、ユーザが享受でき、次に、ビジネス、あるいは、産業に活用することができるわけですが、そこにとどまることがないことがミソなのです。今日、情報家電の利用者まで含めて、膨大な数のユーザがLinuxソースコードにアクセスする権利を持つわけですが、実際にソースコードを読むことに興味のあるユーザは少数派でしょう。しかし、少数派ではあっても、それを活用したいと思う人々にバグ修正や機能追加の可能性を残し、世界中の少数派の力をLinuxのアップストリームに結集させる仕組みを作ったことにより、Linuxの品質向上や機能拡張がドライブされ、それらがLinuxを利用する人々の利益に繋がっているのです。

ところで、オープンソースの原理に沿ったイノベーションがドライブされるにしても、Linux開発コミュニティに参加するのは、技術者の自己満足じゃないか、自社の優位に繋がる Linuxの拡張を競合他社と共有するのは自らのビジネスチャンスを他社に譲ることになるのではないか、といった疑問もあるのではないでしょうか。次回、「Linuxの開発に参加している人々」では、Linux開発に積極的な企業(3段活用)の事例を見ながら、それらがいかに各企業の不可欠な活動(2段活用)になっているかを見てみたいと思います。

9月27日(月)~29日(水)六本木アガデミーヒルズで開催されるLinuxCon Japan/Tokyo 2010には筆者も参加します。いろいろな企業の方々のご意見を伺う機会にできれば幸いです。

著者プロフィール

工内 隆(くない たかし)
工内 隆(くない たかし)

2001年以来、富士通にてLinuxの開発および適用を推進、また、LinuxディストリビュータやLinux開発貢献に力を入れる企業間の協業を企画。富士通退職後、2006年にThe Linux Foundationのジャパンディレクタとなり、世界のLinux開発コミュニティと日本のLinux開発者の間の『橋掛け』に傾注。2010年1月、ジャパンディレクタを退き、アドバイザとしてThe Linux Foundationの活動をバックアップしている。

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