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Home 特集 コラム 工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」 「よしっ、Linuxで行こう!」VOL5  Linuxの開発に参加している人々(3)

工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」

「よしっ、Linuxで行こう!」VOL5  Linuxの開発に参加している人々(3)

 

今回も前回に続いて、Linux Kernel Patch Statistic を見ていきましょう。今回はLinuxカーネル2.6.12 (2005年6月リリース)以降のカーネルに対してパッチ投稿などによって貢献した技術者、その人の属する組織についての統計に注目し、これらの日本企業・組織の開発貢献の動機はどの辺りにあるのか、また、これらの貢献の結果、企業・組織は人的資源の投入に見合う効果を得ているのかをみてみましょう(Linux Kernel Patch Statistic の表は、前々回のコラムを参照して下さい)。

筆者は、彼らの開発貢献の動機を次の5つに分類してみました。

(1)CPUチップベンダーの動機
日本企業で過去5年間、もっとも多くのパッチを投稿したのはルネサス・エレクトロノクスですが、同社は、Super H(SH)シリーズというCPUチップをはじめ、多様な半導体製品を作るベンダーです。2000年代初頭(旧ルネサス・テクノロジーの時代)、同社は社外のユーザやボランティアの協力も得ながらSHシリーズにDebian Linuxを移植していましたが、Linuxが次第にSH等のCPUシリーズで動作するOSとして重要になったために、Linux開発が正規業務として行われるようになりました。よく言われるとおり、LinuxはIntelアーキテクチャのCPUを主たるターゲットとして開発されています。非IntelアーキテクチャのSHシリーズでLinuxを動作させるためには、SHシリーズ特有の機能をLinuxに追加する必要があり、彼らはそれらをLinuxアップストリームに組み込みました。また、他社のCPUチップも含めた非IntelアーキテクチャのCPUのシステムにおいてデバイスドライバ開発が容易になるよう、OSとCPUアーキテクチャのインターフェースの抽象化を提案し、Linuxアップストリームに受け入れられた実績もあります。この機能は、同社の将来に渡る開発の効率化に繋がっているのです。
このように自社のCPUチップでLinuxを動作させる、あるいは、Linuxをチューンアップするという動機に基く開発貢献は、多くのCPUチップベンダーに共通です。海外勢ではIntel、IBM、AMD、MIPS、TI、Freescaleなども貢献パッチ数の上位に顔を見せており、結果として、多様なデバイスでLinuxが動作できる環境を作っています。日本の東芝やソニー、韓国のSamsungなどのパッチ投稿も、それぞれの企業が推すCPUチップでLinuxを動作させるという動機を含んでいると推測できます。

(2)基幹システムベンダーの動機
ここ2~3年の日本の開発貢献の半数近くは、基幹システムベンダー、すなわち、富士通、NTT、NEC、日立によって行われています。これらのシステムベンダーは、2000年代中ごろ以降、それまでメインフレームやUNIXで築いてきた基幹システムにLinuxを適用することで、基幹システムのコストパーフォマンスの飛躍的向上を目指そうとしました。これらの各社は、従来、ユーザの基幹システムの構築にあたり、どんなに再現の難しい障害でも原因を究明して再発防止の措置をとることや、複数のCPUを搭載した大規模システム上でのアプリケーションの拡張性、あるいは、そのような大規模システムでの複数のアプケーションに対するきめ細かな資源(CPU、メモリ、I/Oなど)配分など通じて、高い信頼性を維持できるシステムを構築することを得意としてきました。しかし、2000年代初めの頃のLinuxはこれらの機能が不足していたため、これらの4社は、国内・海外の企業とも連携して、障害時のメモリダンプ機能、システムトレース機能、資源管理機能、ファイルシステムのサイズ拡張などを開発し、Linuxアップストリームに対して大きな貢献を行ってきました。また、クラウドコンピューティングのようなサーバの新しい利用形態に必要な仮想化技術に対する開発貢献も多く行っています。
基幹システムベンダーには、もう一つ、動機があります。基幹システムユーザにLinuxを適用した結果として発生するLinux OSの障害修正のフォローです。これらの障害を解決するための修正は、ユーザのシステムに適用されるだけではなく、同時にLinuxのアップストリームにも適用されることが重要です。これにより、将来に渡り、当該障害の修正が取り込まれたLinuxを入手できることになり、ユーザごとにベンダー固有の修正を維持する手間がなくなる訳です。

(3)組み込みシステムを利用するベンダーの動機
情報家電などの組み込みシステムでは、2000年代初頭から、他のリアルタイムOSに代えて、ネットワーク機能や開発ツールにおいて優位性のあるLinuxを採用する動きが進みました。しかし、組み込みシステムはサーバに比べてはるかに個別性が強く、当初は、アップストリームLinuxに汎用的に機能を実装するよりも、ベンダーに閉じた特別なLinuxを開発する傾向が強かったようです。しかし、最近では、組み込みシステムに必要なリアルタイム性や省電力に関連した機能などはアップストリームに実装され、サーバまで含めた全Linuxユーザに有効に活用されるようになってきました。ソニーや東芝のパッチ投稿もこのような領域への開発貢献を含んでいます。日本、あるいは米国のサーバベンダーに比べると、組み込みシステムのベンダーの技術者は、Linux開発コミュニティの中では未だに少数派のように見えます。しかし、世界に先駆けて組み込みLinuxの利用を推進した日本ベンダーの活動は全Linuxコミュニティからも注目を集めており、今後、情報家電などの技術で先行する日本ベンダーの貢献によって、Linuxが適用範囲を大きく広がることが期待されます。そして、情報家電と同じことが、車載システムや他の制御システムでもこれから起きると予想されます。

(4)Linuxに特化したソフトベンダーの動機
表のothersに含まれるものの多くは、ミラクル・リナックス、VAリナックス・システムズ・ジャパン、フィクスターズのようなソフトベンダーの貢献です。これらの企業の業務内容は様々ですが、各社ともサーバベンダーや組み込みシステムのベンダーと連携してLinuxユーザのサポートやLinuxの機能拡張といったLinuxビジネスを展開しています。これらの企業は、グローバルなLinuxコミュニティに通用する技術者を擁することで、それぞれの企業の技術力を示している面があります。

(5)公的標準普及プロジェクトの動機

日本のインターネット普及組織WIDEの中のUSAGIは、Linux上にIPv6を完全実装することを目的とした大学・研究機関・企業の連携プロジェクトです。USAGIは、上記の(1)~(4)と大きく異なり、非営利なLinux開発貢献としてユニークなものですが、ここにも独自の動機があります。すなわち、商用OSベンダーと協力して彼らの製品にIPv6の実装を行うことに比べると、Linuxでは思う存分に自らの判断で実装することができ、しかも、Linuxはサーバから組み込みシステムまで広く利用されるため、LinuxはIPv6の社会的普及の好適なターゲットなのです。USAGIと同様の動機で進められている開発に、米国家安全保障局(The National Security Agency:NSA)が中心に進めるセキュリティプロジェクトSELinuxがあります。


このように、日本の企業のLinux開発貢献の動機はさまざまですが、グローバルなLinux開発コミュニティにもその意義を認められ、Linuxの機能の向上に大きく貢献しています。もちろん、Linuxに実装した機能は、それぞれの企業の製品戦略にもいろいろな効果を生み出していますが、経済原理に反するような利他的な貢献ではありません。これは日本企業に限ったことではなく、世界のLinuxサポート企業に共通の原則になっているのです。

しかし、このような開発貢献がはじめから企業内で好意的に認められていたわけではありません。次回は、よくありがちなLinuxの開発貢献への抵抗について説明します。
お楽しみに。
 

著者プロフィール

工内 隆(くない たかし)
工内 隆(くない たかし)

2001年以来、富士通にてLinuxの開発および適用を推進、また、LinuxディストリビュータやLinux開発貢献に力を入れる企業間の協業を企画。富士通退職後、2006年にThe Linux Foundationのジャパンディレクタとなり、世界のLinux開発コミュニティと日本のLinux開発者の間の『橋掛け』に傾注。2010年1月、ジャパンディレクタを退き、アドバイザとしてThe Linux Foundationの活動をバックアップしている。

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