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Home 特集 コラム 工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」 「よしっ、Linuxで行こう!」VOL6  Linuxの開発に参加している人々(4)

工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」

「よしっ、Linuxで行こう!」VOL6  Linuxの開発に参加している人々(4)

 

日本企業のLinux開発貢献が、2005年にはカーネルのパッチ総数の1.5%程度だったものが、2006年には3%台に、2007年以降は5~6%台になったことは既に紹介しました。順調に増加しているように見えますが、このような開発貢献が、はじめから企業のビジネスに直接に関わる活動として支持されていたわけではありません。2000年代前半のLinux開発への参加は、個人あるいは研究部門の「腕だめし」の場といった捕らえ方でした。2000年代の後半になり「オープンイノベーション」のメリットが紹介されるようになるとともに、貢献への理解が深まり、パッチの数も増えてきました。しかし、さらに多くに企業が開発貢献に参加するには、あるいは、これまで開発に参加していた企業が現状の貢献のレベルを維持・拡大するには、昨今の厳しい経済状況の中、企業の大小を問わずいろいろな抵抗を乗り越えてLinux開発に関わる予算を確保する必要があるでしょう。
今回は、Linuxへの開発貢献に対する企業内の抵抗と、それを乗り越えるのにどんな説明が必要かについて考えてみたいと思います。

さて、Linuxの開発貢献に対する最も根本的な抵抗は、「開発貢献が企業・組織の利益に繋がるのかがわからない」というものでしょう。
前回紹介した事例で分かるとおり、Linux開発貢献は、結果として、企業・組織の利益に繋がり、企業の売り上げに直結しており、企業もLinuxの開発貢献に、次のような広範なメリットがあることは認めています;

  1. あらゆる先端機器が情報武装され、また、企業からのサービス提供がインターネット経由になりつつある環境において、高度なソフトによる付加価値提供は重要な差別化戦略。Linuxはこのような状況において、いつでも自由に利用でき、しかも、非常に豊富な機能を備えた重宝なツール。
  2. 各社のハード製品、あるいは、アプリケーションソフトやサービスとLinuxとの整合性を高めることが必要。企業に閉じて開発を行うよりも、Linux開発コミュニティと協調した方が経済的。
  3. 技術的にみても、企業内の限られた人的資源で開発するよりも、同じ課題を共有する世界の優秀な技術者と協調した方がはるかに完成度の高い実装が可能。「社内の人材よりも優れた社外の人材」は必ず存在し、一緒に協調できる。
  4. 開発貢献の力量は、Linuxプラットフォームの総合力、すなわち、システム構築のノウハウやサポートサービスの力、将来の技術動向を予測する力として、企業のアピールポイントになる。
  5. 技術者がグローバルなLinux開発コミュニティの中でリーダシップをとって活躍できることは、グローバルに通用する人材の証明。開発貢献は教育の機会でもある。


しかし、このようなメリットを縷々説明しても、そう簡単に予算確保できるほど甘くはないのが現実でしょう。Linuxをサーバーや情報家電に組み込むと、確かに、大量に出荷する製品では、他の商用OSに比べてコスト削減のメリットは大きいのですが、少量出荷製品では、企業全体として見ると大きなコスト削減をメリットと言うのは苦しいでしょう。やはり、商用OSではできないこと、すなわちLinuxならばこその利点、例えば、自由にビジネスに適用できる、自社にとって必要な技術を反映することもできる、そしてそれによって、クラウドコンピューティングのような新たなビジネスチャンスに早期参入できることや、多様なツールを搭載した組み込みシステムの展開が短期間で可能であることを強調し、企業の戦略的投資として全社的な承認を獲得するのが上策でしょう。前回紹介したLinuxへの貢献企業でも、企業の上層まで捲き込んでLinuxに取り組む企業ほど、Linux開発への参加が積極的になっているようです。

開発貢献に対する、もう一つの困った抵抗として、主に法務部門や管理部門から出てくる、「自社のノウハウの流失」、あるいは、「競合他社を利する」という懸念でしょう。この懸念を払拭する回答はHenry Chesbroughの『オープンイノベーション』(英治出版)や、Don Tapscott/Anthony Williamsの共著『ウィキノミクス』(日経BP)に書かれています。これらの識者によって繰り返し力説されるのは、「インターネットの普及によって技術・情報の共有が速くなったために、知的財産を占有した製品を作るよりも、社外の技術者と協調した製品を作る方が、技術革新のスピードでも、開発コストの軽減でも、さらには、市場における普及でも、格段に有利」ということです。また、実装された機能の完成時期を承知し、その機能をすぐに使いこなせるのは、開発に参加した企業だけであり、しかも、新機能は間違いなく開発貢献企業の想定した使用シーンに沿っているのです。

開発貢献とは逆に、「フリーライダー(Free rider)でいいじゃないか」という開きなおった意見もよくあります。確かに、開発貢献は、Linuxを利用することに対する義務(税金)として強制されている訳ではありませんし、GPLで規定される以外、あまり負担もなく自由に使えるからこそLinuxの適用も急拡大してきました。しかし、いつまでもフリーライダーを続けることは決して褒められるものではありません。Linuxのウェブサーバを運用している企業から、Linuxを組み込みシステムに活用している企業まで、Linuxに対する責任を分担する意識は必要です。スタートアップ企業でも大企業でも、Linuxを活用した製品・サービスのビジネスが成長してくれば、「ところで、あの会社、どういう貢献をしているのだろう?」と期待をもってLinux Kernel Patch Statisticをチェックされることは間違いありません。顧客から見れば、開発に参加している技術者がいるから安心、という面もあると思います。もちろん、Linuxに対する貢献は、ソースコードによる開発貢献以外にも、バグ報告のレベルから、Linux関連組織やLinuxイベントへの支援など、いろいろな形態があり、各企業の状況に適した活動を行えば十分です。同時に、そのような貢献を上手に目立たせることも重要です。

先のLinuxCon Japanでは、日本人開発者の代表3人のパネル討議が行われました。「世界の優秀な開発者と一緒になってLinuxの機能を良くして行くのは、技術者冥利につきる楽しい作業である」との発言があり、日本人の聴衆も海外のLinuxメンテナーの方々も大いに納得していました。その言葉どおり、Linuxの開発貢献は、企業にとって戦略的に資源を割くべき活動であるとともに、技術者にとってもエキサインティングな活動であり、彼らはその活動の中で成長しているのです。企業は、自社の技術者のこのような成長を支援することにより、グローバルな競争戦略と協調戦略を使い分けることのできる企業文化を磨くことができるのではないでしょうか。

 さて、この話はひとまずここで終了です。
次回は、Linuxの利用や開発貢献に伴うちょっとした制約を、しっかりと受け止める術について触れてみたいと思います。

著者プロフィール

工内 隆(くない たかし)
工内 隆(くない たかし)

2001年以来、富士通にてLinuxの開発および適用を推進、また、LinuxディストリビュータやLinux開発貢献に力を入れる企業間の協業を企画。富士通退職後、2006年にThe Linux Foundationのジャパンディレクタとなり、世界のLinux開発コミュニティと日本のLinux開発者の間の『橋掛け』に傾注。2010年1月、ジャパンディレクタを退き、アドバイザとしてThe Linux Foundationの活動をバックアップしている。

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