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工内 隆の「よしっ、Linuxで行こう!」

「よしっ、Linuxで行こう!」VOL9 Linuxはさらに進化する

 

本コラムシリーズの終わりとして、Linuxの今後の進化について考えてみたいと思います。

筆者は、過去30年に渡りコンピュータOSの開発を通じて、情報システムの変遷に関わって来ました。振り返って見てみると、2000年頃から盛んに『オープンイノベーション』が口にされるようになりましたが、それよりも10年くらい早い1990年頃から情報システムの『オープン化』の流れが始まり、それが加速・拡大してきたことがわかります;

  1. 1980年代『独自システム』
    日本のコンピュータ各社がハードとソフトを自前で開発していた時代。アプリケーションもネットワークもベンダー独自。メインフレームシステムの価格は数億~数十億円のレベル。
  2. 1990年代『UNIX(オープンシステム)』
    自作ハードを維持しつつもCPUチップやUNIX OSソフトは外部から技術導入、『オープン化』が始まった時代。オープンシステムは、アプリケーション インタフェースとネットワーク インタフェースの共通化を通じて、アーキテクチャーの異なるシステム間で商用ミドルウェアの共通化とインターネット接続を可能にした。RISC UNIXシステムの価格は数百万~数千万円のレベル。
  3. 2000年代『Wintel』と『オープンソース(OSS)』の拮抗
    CPUチップやOSを外部から調達し、コンピュータの自作部分は少なくなる。Intelアーキテクチャー サーバの低価格化により、有償のWindowsか、無償のLinuxかに関わらずハードとOSのトータル価格の低下が進行。また、Webベースのアプリケーションの役割が劇的に拡大。Intelアーキテクチャー サーバの価格は数十万~数百万円のレベル。
  4. 2010年代『クラウド』の普及
    コンピュータユーザがネットワークの裏にあるサーバを意識しない時代。OSやDBミドルウェアなどの基本ソフトでOSSが採用される。Googleのような無償サービスから医療クラウドのような有償サービスまで多様なサービスが出現。Intelアーキテクチャーサーバの価格は数万円~数十万円のレベルながら、今後、どうなるかは不明。

それぞれの時代において、言い換えると10年ごとに典型的なコンピュータシステムのハードとOSのトータル価格は1/10以下に下がる一方で、出荷台数は10倍以上に膨らんでいます。そして、オープンイノベーションの結果、世界の誰もが入手できる技術を活用した製品が世界展開し、独自技術やローカル技術の適用分野は上位アプリケーションやサービスの領域へとシフトしてきています。

もう一つの重要な要因として、コンシューマ情報デバイスの拡大があり、それが次の時代の情報システムに大きく影響したと考えることもできます。すなわち、1990年代の『パソコン』の爆発的普及が2000年代の『Wintel』や『オープンソース』に、また、2000年代の『携帯電話』や『モバイルデバイス』が2010年代の『クラウド』に繋がっているのは明らかでしょう。

それでは、今後10~20年間、どのようなことが起きるのでしょうか。2010年代に予測される『オフィス・工場・家庭・自動車などのあらゆる機器の情報デバイス化』により全世界規模で、コンピューティング能力、ネットワーク容量、省電力の要請がますます強くなることだけは確かでしょう。新規参入者も既存ベンダーも、ハードとソフトの両面で、より低価格でかつ自由な取り扱いを可能とするCPUチップや周辺装置を調達することによって、世界展開可能な製品を目指す傾向はますます強くなり、その流れに乗って情報システムや情報デバイスの世界でLinuxはさらに採用が広かることが予想されます。そのような状況の下で、LinuxおよびOSSは、次のように進化を継続するでしょう;

  • Linuxはますます多様なCPUチップや多様なデバイスに対応していく。
    商用OSベンダーは、利益と効率を追求する宿命にあり、結果として、限定されたCPUアーキテクチャーの寡占に力を貸し、かつ、単一の製品でより大きく展開できる市場(例えば個人用デスクトップ)に最適化したOS製品を目指さざるを得ない。しかし、Linuxは、多様なCPUチップベンダー、あるいは、スパコンやリアルタイムシステム、さらには、極端な省電力や省メモリなどの特定用途の開発要件を受け入れるので、より多様な製品に展開することができる。
  • Linuxには全てのカテゴリーの製品の要件が実装される。
    組み込みシステムの要件として実装されたリアルタイム機能や省電力機能が、基幹系情報システムサーバの有効機能として役立っているように、特定領域の機能は、汎用的に有効であることが多く、Linux全体の機能強化に繋がる。Linuxのソースコードは確かに膨張するが、Linux開発コミュニティに参加する技術者の人口拡大が複雑化の問題を解決する。
  • Linuxでは有効利用されるコードが生き残る。
    実際に利用されるかどうかは分からない実験的な機能、あるいは、特定のCPUチップや周辺装置の要件が実装できるのもLinuxの特徴の一つであるが、メインストリームに実装されても実際に利用されない機能は、バグ取りも、機能の追加もなされず、保守する人もいなくなって、Linux全体の進化から取り残され、やがてbit rot(枝枯れ)になると言われている。これはLinuxの開発の仕組みが合理的に働いている証拠であり、今後も続くだろう。
  • Linuxは商用OSに比べて長く成長を続ける。
    商用OSの場合、DEC VMSやSolarisなど20年位で成熟し機能追加も緩やかになる傾向がある。これに対しLinuxは、今年が誕生20年、開発コミュニティの人口拡大の勢い、あるいは、Linus Torvalds氏の若さ(41歳)からみても、まだ20年位は十分に成長を継続すると考えられる。Linuxでは、メモリ管理とかファイルシステムとかの単位で局所的に全面再開発が敢行されており、他の技術の進歩への追従もできている。今後、局所的に、効率の良い開発言語が採用される可能性もある。
  • Linuxの開発スピードは商用OSの開発スピードを上回る。
    携帯電話や携帯端末などの特定分野で商用OSの利用が無くなることはないが、競合製品の開発を目論むベンダーは、開発速度において勝るLinuxで同等以上の機能を実現する。このため、商用OSを採用した製品が独占を享受できる期間は短くなる。
  • Linuxはオープンソース開発コミュニティのモデルケースの立場を維持し続ける。
    既に、オープンソース化された商用OSの例(SolarisやSymbian)や、一部にOSSを取り入れたOS(Apple iOS)の例は多く、今後はパソコン用の商用OSさえもやがてオープンソース化されるかもしれない。しかし、Linuxは参加技術者の増加と中立的な運営方法により、全てのオープンソース開発コミュニティの先行モデルとなる。

『ウィキノミクス』の共著者、Anthony Williams氏は、2009年のJapan Linux Symposium(昨年からは、LinuxCon Japanに改称)の基調講演にて、「Linuxはオープンイノベーションの未来を照らす」と述べておりました。いまや、世界中の人々による協調開発は、Linuxのようなオープンソースソフトだけではなく、多くの産業の技術開発の方法論として定着していますが、それもこれもLinuxが成功したからこそ受け入れられたものでしょう。協調開発の先行きを見通す時にもLinuxの状況が参考になります。近代において、家伝の秘術が消滅し、科学が世界中の人々の英知を集めたように、今後、オープンイノベーションが技術開発の常道となり、Linuxや他のOSSを活用したりそれらの開発に貢献したりすることが、企業の普通の技術活動になるのではないでしょうか。

本コラムシリーズは今回にて終わりといたします。
本コラム執筆にあたり、日立から出向して現在The Linux Foundation Japanで活躍されている杉田由美子さんにアイデアや表現など、沢山の助言をいただきました。ここに感謝の言葉を添えさせていただきます。

著者プロフィール

工内 隆(くない たかし)
工内 隆(くない たかし)

2001年以来、富士通にてLinuxの開発および適用を推進、また、LinuxディストリビュータやLinux開発貢献に力を入れる企業間の協業を企画。富士通退職後、2006年にThe Linux Foundationのジャパンディレクタとなり、世界のLinux開発コミュニティと日本のLinux開発者の間の『橋掛け』に傾注。2010年1月、ジャパンディレクタを退き、アドバイザとしてThe Linux Foundationの活動をバックアップしている。

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