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伊達 政広氏インタビュー

伊達政広氏インタビュー

  今回はLinux Foundationのボードメンバー(理事会)のバイスチェアマン(副議長、理事)を勤める、富士通株式会社の伊達政広様にお話を伺いました。(インタビュアー:福安徳晃 The Linux Foundation)

 


福安:  数年前まで「ミッションクリティカルなシステムには心配だ」という声があったLinuxが今年の1月にはついに日本でも最もミッションクリティカルなシステムの一つといえる東京証券取引所に導入されました。
  ここに至までLinuxは多くの課題を解決してきた訳ですが、伊達さんの目からみてLinuxがこの先抱えている課題などについて伺いたいと思います。


伊達:  その質問に対しての答えはとても難しいですが、一つ言えることは、多彩・多様化する要件に対する挑戦という感じでしょうか。
  Linuxは様々なシステムに適応されてきています。その適応範囲が爆発的に広がり、その結果Linuxユーザの要件が多様化してきているといえます。小さなオーディオ機器、携帯電話、TVから、軍事用レーダー、駆逐艦、スーパーコンピュータ、それに東京証券取引所様のシステムにまでLinuxが採用されています。このような多様なシステムを広く、一つのOSがサポートしたことは今までOSの歴史無かったことです。
  ①小さく早く立ち上がるという組込み向けのシステムの要件と、②大規模なストレージシステム、数千のCPUプロセッサをサポートするスケーラビリティ要件と、③24時間365日障害で止まってはならないシステムの高信頼性要件では、同じOSに対する要件であってもシステムによって、その質やプライオリティーは異なります。このような多様化する要件に如何に挑戦して行くかが今後のLinux課題の一つであると思っています。

 Linuxは東京証券取引所様のシステムを実現しているのだから、OSとして完成していると考えがちです。確かにエンタープライズの分野ではUNIXと比較しても完成度は高いと見ていますが、クラウド・コンピューティングなど従来のOSがカバーしてこなかった新分野から見れば、VM(仮想化機能)など継続強化が必要です。ハードウェアの能力の進展で従来存在しなかった高性能、大規模システムの構築もLinuxに求められるようになりました。ファイルシステム(btrfsなど)や、ドライバー(I/O device driverなど)、はこうしたシステムの出現に合せ継続した機能強化、信頼性強化が必要です。
  Linux Foundationの前身であるOSDLができたころ、2000年前後は、サーバーにLinux をもっと適用していこう、フロントエンドのサーバー(Webサーバー、mailサーバーなど)だけではなくて、基幹システムのサーバーでもLinuxを利用出来るようにしよう、というのが気運だったと思います。今は、組込みシステムを含め、あらゆるコンピュータシステムにLinuxの活用が拡大しています。

 


福安:  なるほど。今後、小さいシステムから大きいシステムまで、全部Linux でやっていくと考えたときに、どう調和していくか課題であると?


伊達政広氏インタビュー 伊達:  OSDLができた当時は、我々、企業は、Linuxコミュニティに関してよく知らずに、企業連合を作って、まとまったソースコード提供するなり、必要な機能のスペックをまとめれば、Linuxコミュニティが開発してくれるか、あるいはLinuxコミュニティに提供したコードをLinuxに入れてくれるとOSDL参加企業が考えていた時期もありました。
  ところが、暫くしてそうゆうやり方は上手くいかないといことに気付きました。
  コミュニティ活動に具体的に参加して、コミュニティの中に入って、小さなPatch(少量のソースコード)を継続投稿し、そのコミュニティのメンバーとして、議論を戦わせて、機能を入れていくという、そういう体制でなければならないと気づいたのです。
  このように多彩、多様な機能の実現には、大きなLinuxコミュニティの中で、要件とその実装方法をオープンに議論し、それを実現していくことが必要です。自分の必要な機能を勝手に、Linuxに追加し、派生版(fork version)を作成しても、中長期的には保守負担にたえられないし、コミュニティの最新版の機能取込みも困難になります。異なる要件、多様な要件もコミュニティの中で議論し、全体として最適な機能をコミュニティの中でLinuxに機能追加していく必要があります。

 


福安:  OSDLができたのが約10年前。そこから企業連合を作ってコミュニティに何かを押付けるような形ではなく、コミュニティに入ってコミュニティと一緒に開発する必要性を認識するようになったということですね。


伊達:  我々は2003年頃から、大きくやり方を変え、Linuxコミュニティに入っていって、一緒に、コミュニティに貢献しながら、皆のために、且つ自分たちのお客様のためにLinux開発に取り組むようになりました。 ソースコードをコントリビューションするのですが、コミュニティメンバーとして参加して、コミュニティの議論を通してLinuxのソースコードを良くしていくというやり方です。

 


伊達政広氏インタビュー 福安:  なるほど。
その結果Linuxはエンタープライズ分野で普通に利用されるようになり、例えばスーパーコンピュータなんかでは世界のトップ500のスーパーコンピュータのうち90%がLinuxを使っています。10年かけてLinuxはそこまで成長してきました。
まず、Linus Torvalds氏自身もLinuxの今後の方向、先のことは判らないと言っていますよね。みんな判らないと思うのです。
では、Linuxは今後どのように発展を続けていくと思いますか?

 


伊達:  難しい質問です。 Linuxは開発ロードマップを持たないのですが、コミュニティの中で議論を繰り返し、開発を進めながら進んでいくということだと思います。
  東京証券取引所様のシステムの実現のためには、取引き、即ちトランザクションのレスポンスタイムを保証するためにLinuxの機能強化が必要でした。具体的にはスケジューラー機能の強化や資源(CPU資源、メモリ資源など)管理機能の強化などが必要でした。レスポンスタイムを保証しようとすると、例えば、CPU資源やメモリ資源を非常に消費するようなジョブがシステムに入ってきも、特定のトランザクションにCPU資源やメモリ資源を必要量割当てる機能、現在のLinuxのコントロールグループ(cgroup)の機能開発が必要でした。
  コントロールグループは今でも議論がありますが、実現のためには大変な努力が必要でした。資源管理、資源をコントロールのための機能を追加することは、何もコントロールしないよりオーバーヘッドが若干増加するのは当然あり、色々な議論がありました。その中で、レスポンスタイム保証の要件を満たし、その機能を必要としないユーザのためにできるだけオーバーヘッドの少ないものをコミュニティの知恵を結集して開発していったわけです。

 何年か前までは、携帯電話にここまでLinuxが使われるとは、予想されてなかったと思います。その中のひとつは先ほど話した資源管理機能のように、スループット確保のためのオーバーヘッド最小化と、レスポンスタイム保証のためのオーバーヘッドが増加する機能追加といった、ひとつのOSで一見二律背反するような要件を実現する必要があり、そう簡単には実現できないのではないかとの懐疑主義的な見方もあったと思っています。しかし、コミュニティの中でオープンにみんなで議論する、オープンなコミュニティ方式で課題、組込みシステムに求められる省電力化、高速立上げの課題などが適時解決されていると考えています。

 


 福安:  現在では本当にいろいろな分野でLinuxは使われており、私たちは意識する事無く、Linuxに毎日触れています。OSDL以降10年間、これまでLinuxの普及をされてきた中で、特に苦労されてきた点を教えて下さい。


伊達:  まずは、サーバーベンダの視点で説明すると、対Windowsでどうか、対Unix、それに対メインフレームでどうかということでしょう。 あまり、コミュニティで歓迎される議論ではありませんが、お客様の視点からはこういった比較がわかり易い場合が多くあります。
  例えば、お客様の視点で考えると、メインフレームはベンダーが部品を全部(ハード、CPU,OS、周辺装置など)自分たちで作っているので、全部自分たち、つまりベンダーが分かっているはず。品質はベンダーの基準に沿っており、従って何か問題が起こっても直ちにベンダーが責任を取って解決する。たらい回しも言い訳もベンダーはできないと思っておられます。
  その反面、メインフレームは特定ベンダーの提供するもので、オープンにならないから、ISVやIHVもサポートレベルが低い、セカンドソースがなくロックインされるとネガティブな面を心配されることもあります
  ところが、最近のお客様はメインフレームの良さも、オープンシステムの良さもご存知であり、メインフレームのような信頼性が欲しいけど、オープンシステムのような豊富なISVも利用したいといった、従来は相反していた要件や、半ばあきらめていた要件がでてきます。
この要件に対してLinuxが一つの解になると考えたわけです。
  Linuxコミュニティに入って機能開発を行えば、お客様が求めている機能、例えば信頼性強化などもLinuxに入れられる。また、オープンソースなので、ソースコードが公開されているので、十分なサポート体制を社内に構築すれば、メインフレームで提供させて頂いているベンダー規準のより良いサポート品質をお客様に提供ができると。そこが一番大きかったと思います。
  日本のお客様だと、障害が出ると、何故それが起きたのかとか、この修正をあてると、何故おきなくなるのかとか、など説明を要求される場合があります。Linuxの場合は、ソースコードがオープンであり、我々のエンジニアがLinuxの処理ロジックを理解し、修正(パッチ)を出せる体制を構築しており、我々の責任でお客さんのサポートができる。それがLinuxをお客様に勧める出発点としてありました。そういった意味では、エンジニアがLinux開発コミュニティに入り、信頼性強化などを実現しながら、高信頼システムのサポートができるような体制を構築することがベンダーとして苦労した点かもしれません。

 


 福安:  やはり企業がLinuxを活用して、ビジネスをやっていくのではあれば、いかにアップストリームと上手く連動していくかということが重要ということでしょうか?


伊達:  その通りです。
  アップストリームの中にはいって、チームとして、あの機能が必要、この機能の改善が必要と議論して、共同で開発する事が重要です。コミュニティのコードを持って来て、そこに自分たち独自のものを付け加えて欲しいと要求するのでは無く、ひとつのチームの中で、ひとつのものをコミュニティの中(upstream、上流)で作り上げていくということだと思います。勿論、ISVサポート、お客様により多くのアプリケーション、ミドルウェアの選択肢をご提供する上で、下流(downstream)のディストリビューションは非常に重要な位置付けにあり、我々はRed Hat社と協業しています。 Red Hat社に世界のベンダーで初めて、共同開発推進室を設置し、共同開発を推進し、Linuxコミュニティで開発された機能のディストリビューション、具体的にはRed Hat Enterprise Linuxへの円滑な取込みやお客様の期待品質実現のために協業して品質確保などを実施しています。
  また、従来メインフレームで大規模・高信頼システムを実現されてきたお客様の要件、システムに障害修正を適応できる時期の制約要件(例えば、年に一度正月休みに定期保守するなど)、長期間の安定したサポート要件などを実現するためにRed Hat社と世界で初めて長期安定サポート体制を協調し構築しました。これは、今回のインタビューのメイントピックスではないので、詳細は割愛しますが、Linuxオープンシステムを非常に高い信頼性を要求される社会システムに採用するためには、①Linuxコミュニティとの協調、②ディストリビュータとの協調、①、②の二点は両輪です。

 


 福安:  ところで話は変わりますが、感覚的で良いのですが、若いカーネルエンジニアは増えているのですか?
  今年4月にサンフランシスコで開催されたコラボレーションサミットでは、Andrew Mortonが「自分たちはもう疲れた、新しい血が入ってきて欲しいと」と言われていましたが、その辺は実感として感じるところでしょうか?


伊達:  ソフトウェア開発の中でも、OS開発は技術的に大変難しいもので、エンジニアにはチャレンジングで、面白いと思います。ただし、やはり動いて作ったものが目に見えるようなGUIツールやアプリケーションのようなものをやりたいという人が増えているのかも知れません。
  オープンソースソフトウェア(OSS)は、上位スタック部分を含め、カバする領域が格段に拡大しており、色々なOSSプロジェクト中から自分のやりたいものを選択できます。従って、相対的にこのような懸念がでているのでしょう。しかし、弊社に入社される若い人は学生時代Linuxを既にいじっていたとか、Linux分野での富士通の知名度、貢献度、またコミュニティに対するソース投稿件数が日本のベンダーで一番多いなどを知っていたとかの理由で、Linux開発を希望される方もおります。また、広く世界をみれば、現状の開発者の国別分布などから、アジアでは、今後Linux開発者が大幅に増加するポテンシャルがあると思っています。

 


福安:  以前のIPAレポートにあったのですが、日本における組込み技術者のニーズが二十数万人で、そのうち満たされているのは70%程度であり、30%は常に足りていない状況とのことでした。この状況はさらに広がっていくだろうとも予測されており、これを日本のGDPにも数兆円のインパクトがあると言われています。


伊達:  以前は、プロジェクト、関連企業の数だけOSの数があるというくらい、組込みについては、専用OSをプロジェクト単位、企業単位に持っていたようですが、今ではLinuxが広く採用されています。つまりそれは組込み機器のソフトウェア開発におけるOS開発の投資は以前と比べて大幅に減っていることを意味します。
  従って、私は本当にそこまで言われるほど開発者が足りていないのか、と実は疑問に感じている部分もありますが、半導体のテクノロジーの進展で、①その応用範囲を広げる上でキーとなるソフト開発規模増大、②機器に閉めるソフト、OSの重要性が相対的に非常に高くなってきたなどが、組込み関係の技術者不足に現れているのではないかと思っています。

 


 福安:  Linuxが抱える課題についてですが、
  最近モバイル・組込みの分野でLinuxが使われるようになってきた訳ですが、過去10年みてもLinuxを使っているビジネス領域は実はすごく広がっているわけではなくて、同じ会社が同じように使っています。
  新しくLinuxを使っているインダストリーが生まれてきているわけではない、これがひとつ確かに課題だと思うのです。


伊達:  ソーシャルネットワーク、携帯オーディオ機器など新たに生まれた産業、既成の産業、自動車、航空機にしろ、家電製品、電話、メディア、にしろ、今はOSS/Linux抜きには産業がなりたたないくらいにOSS/Linuxは社会、産業に浸透しているとの認識です。サーバーのOSとしてもいつの間にかLinuxが主役になっています。
  以前は先ほどいわれた様に、『Linuxは本当に大丈夫なのか』という世界でしたが、今では戦うべき相手、OSは誰かといった議論は無くなってしまいました。従って、私は今後のLinuxは新たな領域を含め、利用範囲は拡大し続けていくとの理解です。
  確かに、Linux開発コミュニティでの半導体や携帯ベンダーなど組込み分野関連企業の参加、貢献度が上昇してきていますが、Linuxの活用が拡大している分野の方々が、多様化する要件に応えて行くために、またLinuxを良くするために、Linux開発コミュニティにより積極的に参加され、コミュニティ開発者が増加して行くことを期待しています。

 


 福安: 将来は予測できないとして、Linux Foundationのボードとして、Linux Foundationがやっていかなければならないことは何とお考えですか。コミュニティ活動を支えていくためにLinux Foundationは縁の下の力持ちとして、活動をささえていかなくてはならないのかなと思っていますが。


伊達:  今まで通りの軸は変わらないが、そのやり方は変わるのかも知れません。
  マイクロソフト等ISV、ソフトウェア企業と比較すると、『コミュニティ』という集団は、「玉ねぎみたいにどこまでいっても芯がない組織」などと言われたことがあり、本当に何かあったときに、Linuxを守ったり、Linuxを中心的にプロモーションしたりできる組織がないのが課題と言われた時期があります。
  実際に何かLinuxの問題が表れたら、一企業が立ち向かうとか、またコミュニティの一個人が立ち向かうというのはあまり望ましい構造ではありません。ですから、とにかく何かあれば顔になって、プロモーションもするし、リーガル関係も受け止める、そういう組織を期待しています。
  Linux もコミュニティも、今までにないネットワーク的組織でここまできたけれども、プロセスを支えたりする組織の重要性は増していると考えています。
  ネットワーク型のエコシステムでは、すべてをサポートする組織ではないが、コミュニティの開発プロセス、Linuxエコシステムを支え、サポートする組織としてLinux Foundationが中心的な役割を果たすことを、期待されていると思います。

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