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Linux.com Japan

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伊達政広氏インタビュー

今回はLinux Foundationのボードメンバー、株式会社日立製作所の橋本尚様にお話を伺いました。(インタビュアー:福安徳晃 The Linux Foundation)

 


福安:  LinuxはLinus がソースコードを初めて公開してから、今年の8月25日に19歳をむかえました。その後日本の東京証券取引所をはじめ世界各国のミッションクリティカルなシステムの多くにLinuxが採用されるまでに成長してきています。
 かつてLinux Foundationの前身であるOSDLでは「Linuxをエンタープライズのシステムに」課題に掲げていましたが、それは概ね達成したと考えてよいかと思います。
 そのような中、すでにある一定のレベルに到達したLinuxの今後の課題について、橋本さんはどのように考えますか?


橋本:  確かにLinuxはある一定レベルまで来たと言う方々がいます。エンタープライズ分野の関心が最近はクラウドコンピューティングに集まり始めており、ユーザーからは遠い存在になってきています。そのような背景があり『カーネルにやることはない』という考えも確かにあります。
 しかしクラウドなど新しいアプリケーションがでてきたときに、ハードとその上にはOSが必ず必要です。
 例えばハードは今後も絶え間ない進歩をするでしょう。メモリの量を例にとっても、キロからメガ、メガからギガへと大変なスピードで技術革新がなされています。メモリの容量が増加すれば、当然の事ながらコンピュータシステムで実現出来ることが変化して行きます。また、それに伴いユーザリクエストも変わり、例えば過去の例で言えばスケジュラー等も変わったりしました。更には、新しいファイルシステム等も出てくるでしょう。今後もこのようなハード、ソフトの技術革新とそれに伴うユーザリクエストの変化が間違いなく出てくるはずです。
 このような絶え間の無い技術革新がある中で、当然Linuxも進歩を続ける必要があります。従って、『もうカーネルにやる事は無い』というという事は事実では無く、 今後も課題は沢山あると考えています。

 


福安:  時間とともにユーザリクエストが変わり、新しいアプリケーションが出てくるなど、様々な変化がある中で、Linuxが追従していかなければいけないニーズはあるかも知れないということは理解しました。
 ただその一方でファンダメンタルにはやりつくした感があると見る方もいるかも知れません。例えばエンタープライズの分野やモバイルの分野では既にLinuxを使っています。既に使っている上での機能向上だと思います。かつて業界を上げて「Linuxをエンタープライズシステムへ」と取り組んでいた当時のような、抜本的に新しい分野におけるLinuxの活用と言った取り組みなどはあるのでしょうか?


橋本尚氏インタビュー 橋本:  例えば社会インフラへの適応がそれにあたると思います。
 銀行、交通管制、飛行機など重要なシステムはIT化が進みました。都市のシステムをトータルで考えた場合、例えば信号制御等も、単体では無く、一つのトータル的なシステムの一部として考えて行く事が重要でしょう。都市機能を支える社会インフラをトータルに考え、クラウドなどを使って、うまく有機的に連携さることがますます求められて行くと思います。
 その結果、Linuxに対しても様々なニーズや課題が新たに生まれてくるかと思います。

 近未来の社会インフラを考えた場合、Linuxの更なる成長は不可欠であると考えています。   
 例えば自動車とか飛行機など人命に関わる機器の制御にも使われるようになれば、それなりの信頼性を求められることもあるでしょう。また信号機等のシステムをネットワークに接続したとすると、ネットワーク上のクラウドにアクセスできない場合に、信号機単独が知性をもち、判断しなければならないことが求められるでしょう。その場合、自身で判断して処理できるようなプロセッサが必要とされ、その結果OSも入れてやらなくてはいけない。
 こういった未来が予測される以上、Linuxの進化もここで止まってしまってはいけないと思います。
 
 ここ数十年の世の中の流れをみると、テレビ、液晶、レコーダー、CDなど、かつてはハードウェアだけで動いていたのがソフトウェアになり、ネットワークとつながるようになってきました。かつての自分自身の予想を大きく上回る進化だと思います。
 私自身、Linuxを初めてみたときは少し『面白いな』と思った程度で、当時はこんなにネットワーク化が進むとは思っていませんでした。水や電気のようなユーティリティーになるとは思っていなかったし、ワイヤレス環境がこんなに普及するとは思っていなかったです。
 技術革新やそれに伴うマーケットの変化は時として私たちの想像を超越します。従って、私たちも常に一歩先を見据え、留まる事無くLinuxの成長を促していく必要があると思います。

 


福安:  これから社会のインフラの変化に伴って、Linuxも育っていかなければならないと考えているようですが、そういった中Linux Foundationとしての役割はどのようにお考えですか?


橋本: 例えば今後の社会基盤の発展の方向性や、新たな環境下における今とは異なるコンピューターの用途を見据えながら、Linuxがこの先どのように発展していくかをホワイトペーパーなどで提言するというのが、一つ考えられるのでは無いでしょうか。
 MeeGoのように具体的にものを作ってみるというのも良いかも知れません。
 まだ誰も注目していない分野でLinux化、コンピューター化によって、人々の生活を豊かにするとか、そのような提言が出来たらすばらしいと思います。
 現在までのIT化は、まだまだ『コンピューターを使っている』という感じを持っています。そこで、もっともっと人間の生活や、インフラにはいってくるような、そういう用途にマッチしたカーネルなり、OSSを作ることを提言したり、実際に作ってみたりするのも良いかも知れません。

 私は『技術』というのは、例えば単純に「インストールが出来て面白い」だけでは無く、『作って』、『使われて』そして初めて『命』になると考えています。
 それには使われる場面を想定して、それを実現するように取り組むことが大事だと思います。 
 そうすることにより、今のカーネルやLinuxでは何が足りないか具体的なイメージが広がってきますし、そのイメージをコミュニティに提案することによって新たなイノベーションの可能性が広がっていくと思っています。

 


福安: 少し話題を変えます。
 これまで橋本さんはLinux普及の最前線にいましたが、 Linuxを普及させていく上で最も大きなハードルは何でしたか?


橋本:  私が日立に入った頃、UNIXのソースをベル研*1から導入し、それを参考にデバイスドライバーを作るというのが最初の課題でした。ベル研のソースコードを参考することにより、UNIXを深く理解し、また開発も早くなりました。ところが、その後ソフトウェアを有償で販売する時代になり、他方でOSSのビジネスをする場合、どこに価値があるのかを考える必要性が出て来ました。
有償ソフトウェアでビジネスをしている人たちに、無料(OSS)の価値を納得させなくてはいけないということです。
 ソフトを有償販売する人は、なぜ無料なのか?どこに売るのか?と疑問を持ちます。『ライセンスではなく、別のビジネスモデルで収益を上げればよい』と、彼らを納得させる新しいビジネスモデルは説明が非常に難しいところでした。単純にサポートビジネスで儲けます、と言ってもなかなか実際は儲からない。本音としては、これは未だに解決しきれていない非常に難しい課題だと思っています。

*1 ベル研究所(Bell Laboratories)。もともとBell System社の研究開発部門として設立された研究所である

 


 福安:  その課題に対してこれまでどのように取り組まれてきたのでしょうか?


橋本:  ソフトウェアを売るというのは、1回だけ顧客に売ってそれで終了では無いと思っています。
 例えば車などは、売ったらそれで終わりじゃなくて、購入後のケアをしたり、些細な不具合などをいろいろと営業担当者が顧客の相談に乗って、コンサルテーションをしたりします。顧客から何か要求があれば、それが可能な部品や施設紹介をするとか、使い方みたいなものを提案しているとおもいます。
 車はハードだけを売っているとういうのではなく、車を運転して楽しいということ、いわゆるソフトやユーザエクスペリエンスの部分も提供していくわけです。
 Linuxやその他のソフトウェアも本質的には同じではないかと思います。
 つまり、顧客はLinuxを使いたいから使っているのではなく、顧客の要望を実現したいから使っています。その顧客の要望を実現の対価としてFeeを取っています。  
 費用対効果なども鑑みOSSを活用して、でも顧客の要望通りの新しいビジネスはしっかり実現し、その対価を徴収する訳です。
 今はかなりそれが出来ているのではないかと思います。

 


橋本尚氏インタビュー福安:  なるほど、しかしソフトウェアはライセンスで儲けると思っていた人に、『ユーザーのニーズを満たすために、ユーザエクスペリエンスの提供で儲けるんだ、そのためのツールとしてオープンソースが存在するんだ』ということを説明するのは大変だったのではないでしょうか?

 


橋本:  エンタープライズで言えばフラグシップ、つまり事例が重要でした。例えば、日立でいえばUFJ様でしたし、富士通さんだと東証様ですし、組込みで言えばソニーさんのデジカメかも知れません。
 実際に『使われている』という状況が説明出来るようになるまでが大変でした。なぜなら、営業をかけるときに、オープンソースのコンセプトだけを何度も説明しても、顧客に理解してもらうのは極めて困難なので。

 


 福安:  次に、少しマクロ的な話ですが、日本のIT業界全体の課題として、人材不足が指摘されています。


橋本:  優秀な人は不足していると思います。本当に優秀な人は海外や、外資系へ行ってしまっているのではないでしょうか?

 


 

福安:  日本の市場で優秀な人材を増やすための対策としては何が必要だと思いますか?

 

 


橋本:  ひとつはインセンティブでしょうし、もう一つはそれをやる場を与えることが重要だと思います。
 今の日本は両方とも弱いと思っています。
 この現状を打破するためには国と企業両方の役割が重要だと思います。韓国などは、『基礎』と『応用』があるとすると、直接利益が上がらないところ、すなわち『基礎』を国家がやり、企業が応用すると聞いています。国家で開発し、企業がうまくそれを使って儲けるという仕組みが、うまく回っているのでは無いかと思います。

 理系、すなわち科学や化学、は重要なのだと、社会的なインフラが止まったら困るし、それを維持・発展させるには技術者が大事である、と国レベルで認識し、アクションを起していくことが必要でしょう。
 企業レベルで出来ることは処遇を改善することだと思います。
 米国では技術屋は技術屋として組織のトップになれるが、日本では課長くらいになると、一番会社組織のことや技術を理解し、組織を動かせるという脂の乗り切った年代であるにも関わらず『管理職』としてまた『ジェネラリスト』として働くことを要求されます。
 今後はスペシャリストとしてとしての処遇やキャリアパスというのも変えていかないといけないのではと思っています。
 日本でもエンジニアとして能力のある人は、エンジニアとして評価されて、ジェネラリストと同様に、プロモートされる仕組みとか処遇が必要になると思います。

 加えてOSSに関して言えば、日本の大学からのコントリビューションがとても少ないのも気がかりです。

 


 福安:  最後に、差し支えない範囲でよいのですが、日立がLinuxに関して今後注力して取り組んでいく分野を教えて下さい。


橋本:  やはり、社会インフラが大事だと思います。また、社会インフラに取り組むのであれば、信頼性が最も重要であると考えています。そのために日立では、Linuxに関して言えば「トレーサ」にとても力を入れており、今年9月に東京で開催されるLinuxCon Japanの「トレーサミニサミット」でも中心的な役割を担う予定です。

 


福安: なるほど、LinuxCon Japanでのトレーサミニサミット、楽しみにしています*2

*2 インタビューの後日2010年9月28日に開催されたLinuxCon Japan/Tokyo 2010のトレーサーミニサミットでは、国内外からトップ技術者を集め、今後のコミュニティでの開発方針などが協議されました。

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